民事信託・家族信託
民事信託を検討すべきタイミング
1 民事信託を検討すべきタイミングについて
結論から申し上げますと、遅くとも委託者(ご自身の財産を託す側の方)が意思能力を失う前に民事信託の検討を開始する必要があります。
認知能力の低下などによって意思能力を失ってしまうと、法律上、民事信託(「家族信託」と呼ばれることもあります。)契約を成立させることができなくなってしまうためです。
また、民事信託をする際には、基本的には銀行等において信託口口座を作成する必要もあり、銀行等によっては事前に推定相続人全員の同意が求められるということもあります。
このように民事信託をするためには意思能力が必要であり、かつ時間を要することもあります。
そのため、委託者の方の財産に今後大きな変動が見込まれないと考えられるタイミングになりましたら、できるだけお早めに民事信託を検討するべきであると考えられます。
以下、民事信託と意思能力の関係、および民事信託の流れについて説明します。
2 民事信託と意思能力の関係
実は、民事信託をしようと思ったときには委託者の認知症が進行していて、結局民事信託をすることができなかったというのは、典型的な失敗例なのです。
民事信託は、ある程度ご高齢になられた方が、相続の生前対策などのために行うものでもあるので、このような失敗が生じやすいのです。
民事信託は、自分以外の方(多くの場合ご家族)に、ご自身の財産の管理や運用を任せる契約(信託契約)を締結することをいいます。
契約は法律行為の一種であり、法律行為の意思表示をした時に意思能力がなかった場合には、その法律行為は無効になるとされています。
【参考条文】(民法)
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
参考リンク:e-gov法令検索(民法)
そのため、少なくとも意思能力を失っていない段階で民事信託契約をする必要があります。
もし意思能力が失われていると考えられる場合には、成年後見制度を利用するなどの検討も必要です。
3 民事信託の流れ
まず、民事信託で何を実現したいのかを検討します。
例えば、将来認知症になって意思能力を失ってしまった際、施設費や介護費用を賄うために、子がご自身のご自宅を売却できるようにしておきたい、というものが挙げられます。
続いて、民事信託の契約書を作成します。
信託契約は口頭でも成立するとされてはいますが、信託契約が成立したことや、どの財産の管理運用を誰に任せるのか、任された方の権限はどのような範囲に及ぶのか等を明確にするためにも、通常は契約書を作成します。
民事信託の契約書は、信託登記や相続税申告の際にも使用します。
また、後で信託契約の効力が争われたり、契約書の紛失や汚損のリスクを回避するため、民事信託の契約書は公証役場において公正証書で作成することをお勧めします。
契約書の作成手続きと並行して、銀行等で信託口口座の開設もします。
信託口口座の開設にあたっては、銀行等によって手続きや運用が異なることがありますので、窓口等で詳しく確認しましょう。