後遺障害における慰謝料と逸失利益について
1 後遺障害の認定に対する賠償項目
自賠責保険により、事故を原因とする後遺障害が認定されると、ケガに対する治療費や慰謝料などとは別に、後遺障害に対する慰謝料が支払われます。
また、事故前、仕事による収入を得ていたり、家事労働に従事していた場合には、後遺障害により労働能力の一部が失われたとして、これによる収入の減少を賠償するための逸失利益が支払われます。
2 後遺障害に対する慰謝料について
裁判所により異なりますが、多くの場合は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「損害賠償額算定基準」に基づき、自賠責保険が認定した後遺障害等級に応じ、所定の慰謝料が支払われます。
同基準では、後遺障害等級1級で2800万円、もっとも低い後遺障害等級14級(頸椎捻挫や腰椎捻挫の後に痛みが残ったことを理由として後遺障害が認定された場合の一般的な等級)では110万円が慰謝料の目安とされています。
ただし、これは、裁判所で判決に至った場合の金額であり、裁判までに至らず、話し合いで解決される場合には、上記基準の8割程度の金額とされることが多いようです。
3 逸失利益について
⑴ 慰謝料と異なり、必ず支払われるものではないこと
逸失利益は、後遺障害により労働能力が低下し、労働による収入が減少することを理由に支払われるものです。
このため、以下の理由により、後遺障害が認定され、慰謝料が支払われる場合でも、逸失利益は支払われないことがあります。
⑵ 後遺障害にかかわらず、収入の減少が発生しない場合
公務員の方に多いのですが、後遺障害が残ったにもかかわらず、事故後も収入の減少が認められない場合があります。
このような場合は、後遺障害による収入の減少の事実がないことを理由に、逸失利益に対する賠償請求が否定されることがあります。
また、高齢者などのように、事故時、無職であり労働による収入がなく、将来にわたり就労の可能性がない場合にも、逸失利益についての賠償はされません。
⑶ 後遺障害が労働に影響を及ぼさない場合
歯の損傷や、外貌の醜状(顔に傷跡が残ったこと)などのように、後遺障害があっても、労働に影響を及ぼさない場合には、逸失利益が認められないことがあります。
ただし、外貌の醜状については、逸失利益を認めない代わりに、慰謝料額を一般の基準よりも増額する場合があります。
⑷ 被害者が主婦や未就労の若年者である場合
主婦の場合は、家事労働を通じて家計に収益をもたらしており、家事労働を他者に依頼した場合には別途費用が発生することを理由に、逸失利益についての賠償請求が認められます。
未就労の若年者については、事故時は無職でも、事故がなければ、将来就労して労働による収入を得ることになったと考えられることを理由に、就労可能となる年齢から、労働可能年齢との上限とされる67歳までの期間について、逸失利益についての賠償請求が認められます。
⑸ 頸椎捻挫・腰椎捻挫を原因とする後遺障害の場合
上記の場合は、労働能力喪失期間が5年程度に短縮されることと引き換えに、減収の有無は問わずに逸失利益を請求することができるとすることが、実務上の一般的な取扱となっています。
後遺障害で弁護士をお探しの方へ 高次脳機能障害で弁護士をお探しの方へ